Re: Writing Machine

Teoreamachineの小説ブログ

君の代わりに その9

書き終えてみて、僕は、結局これは失敗だなと思う。はじめから分かっていたことだが、この日記は、「彼女」の口を借りて、実際には僕が僕の考えを垂れ流しているにすぎない。それらしく書いてみようとがんばったものの、これは「彼女」ではない。じゃあどい…

君の代わりに その8

六月、二五日。 京都へ。 行き先は決めていなかった。日記を依頼した「彼」と一緒に、とりあえずどこかへ行く、そう決めていただけだった。 その場で行き先を決め、あきれている彼を引き連れるように、新幹線に乗る。西へ、五百キロ、二時間と少し。私は窓の…

君の代わりに その7

できる限りのベタがいい、という「彼女」の要望で、やって来たのは金閣寺、僕らは周囲の観光客からは控えめな位置に立って、池の向こうに浮かぶ金閣を眺めていた。入場券を買うとき、人と喋れない「彼女」はやはり僕の後ろに隠れてじっと宙を見つめていた。…

君の代わりに その6

「良かった、思ってたよりいい旅館で」 部屋の外にある小さな庭を前に立ち、「彼女」が呟く。緑にぎやかな初夏の庭に、ピンク色のアジサイが鮮やかで、「彼女」はじっとそれを眺めていた。アジサイは、おしゃべりする年頃の娘たちのように、かすかな風に揺ら…

君の代わりに その5

どこへ行こう、と「彼女」は言う。相変わらず驚かされることばかりだが、「彼女」は当日になってもはっきりと行き先を決めていなかったのだ。まさかそんな無計画とは思ってもみなかった僕は、さあ、と首を傾げる、そんなにとっさに、旅行先なんて考えつくも…

君の代わりに その4

「彼女」は、じっと窓の外を見つめながら、そこに座っていた。レースの入った真っ黒いワンピースを着て、これまた真っ黒いつば広のキャペリンをかぶっている。服を着ている人間というより、服に収まった人形のようで、その容貌にしろ肌の質感や色にしろ、奇…

君の代わりに その3

そして、僕は「彼女」と出会うことになる。貯金の底が見え始め、それまで脳天気を決め込んでいた僕の、額にじわじわ冷たい汗がにじみ始めたころだった。 「彼女」の依頼は、六月の始め、直筆の手紙とともに僕のとこに舞い込んだ。いつもはチラシしか入ってい…

君の代わりに その2

といったような感じで人生を投げ捨てたものの、僕の心臓はまだ動いていて、呼吸も続いている。死にたいと思ってるわけじゃないから、死なずにすむように、生活費を稼ぐ必要があった。唐突だけど、ここでひとつ。自分で言うのもなんだが、僕は詩人だ。もとも…

君の代わりに その1

「自由になりたいんだ」 長い沈黙の後でそう言った僕を見て、ユミは「もはやお手上げ」、「全部あきらめた」といった調子でため息をついた。もはや涙すらない。乾いた冷たい視線を僕に注いで、再び、ため息。まあ、無理もないのかもしれない、いきなり公務員…

拷問

お前が今何を聞かれているのかを考えろ。 俊介はもう何度そう言われたのか分からないくらいになっていてそれはすでに満腹の胃に食べ物を押し込まれているような感覚そのものだった。もうやめてくれと俊介は三人の男達に哀願するけれども全く無視されてただ聞…

第一回「人類愛と反新自由主義のための全世界大陸会合」におけるEZLN総司令部開会所信表明

第一回「人類愛と反新自由主義のための全世界大陸会合」におけるEZLN総司令部開会所信表明 1996年7月27日 メキシコ合衆国チアパス州 サン・アンドレアス・サカムチェン・デ・ロス・ポブレス オヴェンティック アグアスカリエンテス第二区 アジア、ア…

セルバ・ラカンドナの第6宣言 その6

6 我々がそれを成すために これはメキシコと世界の謙虚で純朴な人々に向けられた言葉で、今日の我々が呼びかけている言葉である。 つまり、これこそがセルバ・ラカンドナの第6宣言なのだ。 我々がここにいるのは、我々のシンプルな言葉で、それを語るため…

セルバ・ラカンドナの第6宣言 その5

5 我々がやろうとしていること この世界とメキシコにおいて我々がやろうとしていることについて話しておきたい。この惑星で起きていることの全てを見過ごして黙っていることはできない。我々はただ単にそこにいるというだけではないのだ。 それぞれの仕方、…

セルバ・ラカンドナの第6宣言 その4

4 我々の見る祖国メキシコ 次は祖国メキシコについての見解をお話しする。思うに、我が国は新自由主義に支配されている。すでに説明したように、指導者たちが国を、祖国メキシコを破壊しているのだ。低劣な指導者たちの仕事とは、人々の幸福に心を尽くすの…

セルバ・ラカンドナの第6宣言 その3

3 我々は世界をどう見ているか ここからは、世界で何が起こっているのかということについて、我々サパティスタの見解を説明したい。今この瞬間、資本主義がかつてない力を誇っているのを我々はまのあたりにしている。資本主義は一つの社会システムであり、そ…

セルバ・ラカンドナの第6宣言 その2

2 我々は今どこにいるのか 我々サパティスタがそうであったように、このような状況だからといって政府との対話に取り組むのを止めるわけにもいかない。怠惰な政治家の寄生虫がそこにいようが、闘いは前進させ続けなければならない。EZLNは先住民の権利と文…

セルバ・ラカンドナの第6宣言 その1

1 我々は何者であるか 我々はEZLN(サパティスタ民族解放軍)のサパティスタであるが、同時に「ネオ・サパティスタ」とも呼ばれる。我々EZLNのサパティスタは、1994年の1月に武器を手に取り蜂起した。我々を辱め、我々から略奪し、我々を投獄し殺して…

セルバ・ラカンドナの第6宣言 序文

セルバ・ラカンドナの第6宣言 2005年6月 これは我々のシンプルな言葉で、我々はこの言葉が、我々と似て謙虚で純朴な、しかしやはり我々と似て威厳ある反逆者でもある、そんな人々の心に響くよう願っている。これは我々のシンプルな言葉で、我々がどん…

最も純粋な子供達のために 最終回

静かな日々が続いていた。特別なことは何も起きない。気分が苛立ったり落ち込んだりすることも無かった。白澤明歩自身も特別なことは何もしなかった。朝起きてピアノを弾いて食事を取って気が向いたら散歩に出かけそして家に戻ったらまたピアノを弾いて眠り…

最も純粋な子供達のために その22

riverrun, past Eve and Adam's, from swerve of shore to bend of bay, brings us by a commodius vicus of recirculation back to Howth Castle and Environs. 裁判で死刑が確定して拘置所の死刑囚収容施設に移された桐原玲は来る日も来る日もたった一つの…

最も純粋な子供達のために その21

間近に迫った裁判を待ちながら拘置所での日々を過ごしている桐原玲の所へ面会に来た白澤明歩はしばらくの待ち時間の後で面会室へ通され透明のアクリル板の前に置かれた椅子に腰かけた。やがて仕切りの向こうでドアが開いてその奥から桐原玲が姿を現す。やつ…

最も純粋な子供達のために その20

頼む。もうこんなことは止めてくれ。 桐原和弘は重々しい調子でそう言ったが桐原玲はそれを鼻で笑って一蹴する。 相変わらずくだらないことしか言えないんだな。 大事なことだ。これだけ多くの人が死んでる。 それがくだらないんだよ。お前が人間の生命にど…

最も純粋な子供達のために その19

桐原玲の放ったショットガンの一撃で顔を吹き飛ばされ直立したままの七瀬夏美の死体の下あごの上にくっついたように数本の歯が残っておりその横には裂けた皮膚が赤く濡れた裏側を見せて垂れ下がっていた。まだ生きた赤ん坊が入っているはずの腹が前のめりに…

最も純粋な子供達のために その18

七瀬夏美は産婦人科の待合室で四歳になる息子の七瀬星海の相手をしながら診察の順番を待っていた。七瀬星海は大きくなった母親のお腹を好奇心に満ちた目で見つめながらそれをなでる。 空海くん。空海くん。 もう既に決まっている弟の名前を呼んで七瀬星海は…

最も純粋な子供達のために その17

桐原玲がいなくなった後も白澤明歩はしばらくピアノを弾き続けていた。もの悲しい曲ばかり演奏していたがやがてとても疲れた表情になり指先を止める。次に何を弾くのか考えているかのようにじっと宙を眺めてからもう一度カンタータ第百四十七番を弾こうとす…

最も純粋な子供達のために その16

桐原玲がインターホンで自分の名を告げると黒塗りの自動ドアが音を立てて開く。エレベーターで五階まで上がり部屋のドアをノックすると陰りのある表情の白澤明歩が出迎えた。 久しぶりだな。 白澤明歩は何も答えずに桐原玲を部屋の奥まで案内する。 どうかし…

最も純粋な子供達のために その15

裏口から階段を上がった所にある広い部屋に招かれた市田恵介達は桐原玲に勧められるままに革張りの黒いLC2に腰掛けた。桐原玲がスタッフに持ってこさせたほとんどジュースのような赤色のカクテルを四人はたいそうなものでも飲むかのようにして味わう。新山翔…

最も純粋な子供達のために その14

降って来た雨が昼の熱をたっぷりと吸った土と草の強烈な臭いを放出させ桐原和弘はむせ返りそうになる。夜の山の木々の奥へシャベルを担いで分け入った桐原和弘は到底誰も来ないであろう場所に見当をつけて白澤健次と白澤裕子の死体を埋めた。闇に沈んだ草木…

最も純粋な子供達のために その13

こいつら全員ぶっ殺したらおもしれえだろうなあ。 駅前の大きな横断歩道を往来する人々を見ながら市田恵介が呟く。 殺すのかよ。もったいねえな。あの娘すげえ可愛いじゃん。俺はあの娘とやりてえよ。 新山翔が目の前を歩く少女の体をなめ回すように観察しな…

最も純粋な子供達のために その12

自家用車の運転席に座らされた桐原和弘は後ろの席で拳銃を構える桐原玲に命令されるがままに車を走らせる。ちらりと助手席に目をやると同じようにそこに座らされている桐原由美が自分をどうにか落ち着かせようとしているかのように目を閉じているが乱れた呼…

最も純粋な子供達のために その11

十九歳になってようやく少年院の門を出た桐原玲はそこに横付けした一台の赤いアウディから出て来た加藤龍成に迎えられた。 你好嗎? 髪を整髪料で後ろに撫で付けた目つきの鋭い加藤龍成の口元には親しみのこもった笑みが浮かんでいる。 很好。 桐原玲は加藤…

最も純粋な子供達のために その10

もう長い間まともな会話を誰ともしていなくて自分がいったいどんな考えや感情の持ち主なのか忘れてしまいそうで不安定になる白澤明歩の情緒をどうにかなだめて落ち着かせてくれるのは結局ピアノの音だった。桐原玲が突然捕まってから完全に一人になってしま…

最も純粋な子供達のために その9

桐原玲が最初に取った行動はほとんど姑息な嫌がらせでしかないようなことだった。北川俊介の持ち物を隠すとか食事の中にゴミを入れておくとかそういうことを執拗なまでに繰り返す桐原玲を加藤龍成は困惑気味に観察していた。加藤龍成からすればそれは北川俊…

最も純粋な子供達のために その8

桐原玲の逮捕理由となっていたのは中国人の男に対する殺人容疑一件のみで他の殺人や暴行や売春斡旋については警察に知られていなかった。苛烈な取り調べに顔色一つ変えず乗り切った桐原玲は結局少年鑑別所を経てから初等少年院に送られた。 少年院では朝六時…

最も純粋な子供達のために その7

桐原玲と白澤明歩が売春相手を探すのはたいていが出会い系サイトだった。プロフやSNSを使って誘いをかけるような人間は小賢しいことをしそうで敬遠していたし街角で直接声をかけるのもリスクが高いと判断した。売春相手として選んでいたのは定職についていて…

最も純粋な子供達のために その6

三日ぶりに家に帰って来た桐原玲と廊下ですれ違った桐原和弘は何か言いたげな顔で息子を見ていたが結局何も言い出せずに突っ立ったままその姿を見送った。深いため息をついて桐原和弘が居間に入ると不機嫌そうな顔の桐原由美が座っていて目が合った瞬間その…

最も純粋な子供達のために その5

久しぶりに路地裏で刺し殺した中年男をしばらく見つめていた桐原玲は血まみれのスーツの襟首をつかんで引っ張り上げると暗く冷たいアスファルトの道の上でその死体をずるずると引きずって通りの方へ歩き始める。薄い毛の生えた死体の頭にべっとりと付いた血…

最も純粋な子供達のために その4

放課後教室から出た桐原玲は非常階段を降りた所に立っている白澤明歩を見つけて微笑んだ。 待ってたのか。 別に。 一緒に帰るか? うん。 それから二人は川沿いの道をほとんど言葉を交わさずに歩いて白澤明歩の住むアパートの一室へとたどり着いた。四つだけ…

最も純粋な子供達のために その3

朝から上がり続けた気温は摂氏四十度近くまで達し冷房の効いていない教室は湿気をたっぷり含んだ熱い空気が漂い呼吸するのも不快なほどになっていたが桐原玲は汗一つかかず平然とした顔で机に座り担任の森岡健二を待っていた。便所に行くと言って教室を出て…

最も純粋な子供達のために その2

目の前に裸で横たわる少女のまだ膨らみはじめたばかりの胸から脂肪も筋肉もほとんど付いていない腹部の下のへそへとその太く短い指をはわせながら桐原和弘はため息をついた。ゆっくりとした呼吸でそのきめ細かく滑らかな幼い肌に包まれた胸を上下させる白澤…

最も純粋な子供達のために その1

桐原玲は夜の街を歩きながらすれ違う全ての人を殺すことを想像していた。例えばショートケーキのような白色のトレンチコートがとてもよく似合っている黒髪の女の目玉をくり抜き肉厚で愛らしい珊瑚色の唇を切り取って喰いながら髪を剃り皮膚を裂いて頭蓋骨を…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その4

もうこの国で座り込みのデモをやめる時が来ている。何人かの貧乏白人上院議員、北部と南部の貧乏白人どもには、ワシントンDCに座り込みのデモをやってもらえば良い。そのうち、我々が公民権を手にすべきだという結論に至ることだろう。私に対して私の権利…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その3

このくらいの領域になってくれば、我々には新たな友人、新たな連帯が必要になる。公民権運動をもっと高い水準、人権という水準まで広げる必要がある。公民権運動ということでもってやっている限り、あなたが自覚していようがいまいが、あなたはアメリカ司法…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その2

一週間前の木曜日、私はワシントンDCにいた。そこでは、連中が公民権の法案を俎上に乗せるか否かを議論していだのだ。上院議員が会議を行う部屋の後ろには大きなアメリカの地図があり、黒人の分布図が描かれていた。南部を見てみると、そこではほとんどが…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その1

穏健主義者諸君、ロマックスを始めとする我が兄弟姉妹のみんな、友人たち、そして敵であるあなた方へ。 ここにいるみんなが友人だとは信じられないが、しかし誰一人として追い出したいとは思わない。今夜お話しすべきは、「黒人による反乱について、そして私…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その3

47ヶ国が集まりカイロで開催された第2回非同盟諸国首脳会議において、全会一致で採択されたことを読み上げよう。 国家への圧力と、自身のイデオロギー、政治、経済、文化的思想に基づく解放と発展の阻止の手段として実用される外国の軍事基地という懸案事…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その2

ここで支持を得た方策が、効果を発揮し、もはや言うまでもないようなことになったとしても、アメリカ合衆国が我々の領域内で攻撃態勢にある基地を維持する限りは、どのような地域協定も維持することはできないと指摘しておかなればならない。その領域とは、…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その1

特別使節より国家の代表たる皆様へ この総会へ招かれたキューバの使節としてまず第一に、世界の問題について議論するこの国連へ三ヶ国の新たなメンバーを歓迎する役目を仰せつかったことを喜ばしく思う。ザンビア、マラウイ、マルタからお越しの大統領及び首…

『君を想う、死神降る荒野で』 最終回

空港にて、ゼロシキは搭乗ゲートでイスに座り、外を飛んでいる飛行機を見つめていた。天井も壁も全てフラーレンダイヤモンドでコーティングしたガラス張りになっているので、視界が空までひらけているのだ。太陽を背にした流線型の影が、頭上を横切っていく…

『君を想う、死神降る荒野で』 その42

クロガネが目の見えない生活に慣れてきたこともあり、いろいろとその世話を焼いていたナルセは、ようやく研究所に戻ることができた。肩書きは所長だったが、死神との戦いが終わった今、実際のその仕事は《機械》に関するデータの整理とその処分だった。《機…