Re: Writing Machine

Teoreamachineの小説ブログ

抵抗の手段ー権力と美と

権力に抵抗するときに、真正面からそれをやってしまうのは失敗になる。分かりやすい抵抗は把握しやすいため、攻撃も批判も容易になる。また、その抵抗自体が権力の対概念を成してしまうため、むしろその権力構造の一部としてしか存在し得ないという最大の欠…

ストーリーやキャラクターを表現する上で、小説は映画やアニメや漫画に劣るだろうか?

文学ー小説は言語の問題に集中すべきだと人は言う。ストーリーやキャラクターを表現するには、映画やアニメや漫画のほうが分かりやすいし、それで十分だと。だが、小説がストーリーやキャラクターを表現することが、単に不便で劣った物にしかならないという…

「Kawaii」をぶっ殺せ

いろんな国の女の子とつきあったり友達になったりして思うのだけれど、日本を含むアジア人の女性の中には、何らかの形で男性に対する軽蔑が潜んでいる。 もちろん、軽蔑という感情は、女性自身の自己肯定感の低さと、男性に対するむやみな期待値の高さから生…

父の日に

僕が父親について考えるとき、頭の中にあるのは常に、「なぜこの人が僕の親なのだろう?」ということだ。 僕にとって、父親は(そして母親も)人生の退屈さ、空虚、敗北、といったものの象徴だ。決して強さを感じさせることは無い、独裁者的なタイプでもない…

雨滴に浮かぶ

――帰り道で会うなんて、びっくりしました。すごい偶然ですね。 仕事帰りにばったり会った小夜子さんから、メールが来ていた。僕はそのメールを眺めて、すぐには返信をしなかった。何となしの、居心地悪さ。 この人は、僕のことが好きなのだ。僕はそのことに…

君の代わりに 最終回

「何してんの?」 とうとう僕の目の前に現れた「彼女」は、開口一番そう言った。僕は、ずっと待っていた「彼女」の登場に、ぽかんと口を開けてしまう。予期していなかったのだ、僕はそれまでのようにメールを送り続けていたものの、特別なことを何かしたわけ…

君の代わりに その23

彼とユミのための原稿を書き終えたあと、僕にはとくに急いでやるべき仕事もなかったので、数日の間ぼうっとした生活を送っていた。全てが終わったあとで、考えるべきことなど何もない。抜け殻のような僕の頭に、湧き上がる気泡のようにぽつぽつと浮かぶのは…

君の代わりに その22

プリントアウトしたその原稿を読みながら、僕は二度三度と首をかしげ、そしてビリビリと破り捨てる。これではダメだ、ここには、やっぱり「僕」がにじみ出してしまっている。彼の代わりに書かなければいけないのに、どうしても僕が書いているのような感覚が…

君の代わりに その21

ユミヘ 君にこんなことを言うのは、おそらく最初で最後になるような気がする。 君と初めて出会った時、僕は君にかける言葉を探す必要はなかった、ずっと自分のそばにいた誰かと話すような心地良さ、最初から、僕と君の間にはそれがあった。君と言葉を交わす…

君の代わりに その20

僕は、くらげのようにこの一週間を漂っていた、何だかよく分からない感情を、どうにも扱いきれなかったのだ。嫉妬でもなければ絶望でもない、後悔でもなければ悲しみでもない、そういう感情の燃えかすみたいなものが、僕の奥底に転がっていた。未練からも失…

君の代わりに その19

あれから、僕は「彼女」からの連絡を待っていたが、そんなそぶりすらない。もう会うこともない、という「彼女」の言葉は、予測ではなく、決心だったようだ。 僕はまた、これまでの生活に戻る。幸い、予想に反して、今までより依頼が安定的に入るようにはなっ…

君の代わりに その18

「ごめん」 別れ際、京都駅の構内で、「彼女」がようやく口を開いてそう言った。まるで、こっぴどいケンカをしたカップルのように、僕と「彼女」はずっと喋っていなかったのだ。 やはり、もう僕の仕事は終わってしまい、だから僕は帰ることになった。でも、…

君の代わりに その17

「日記、書いてるの?」 窓際のテーブルでノートパソコンを広げてカタカタやっていた僕に、「彼女」が話しかける。「彼女」は、何でもないふうを装いつつも、ずっと青ざめた顔をして、心はここにあらずという感じで、あまり良い状態とは言えなかった。僕の方…

君の代わりに その16

七月、十日 いったい、あそこで何が起きたというのだろう、いや、何も、起きなかった。私が母親だと思って会いに行ったものは、すでに母親ではなかった。ということは、私には、もう母親はいない。私の感情や思い出が、わずかに付着していたはずのそれは、す…

君の代わりに その15

山の上にひっそりと建っていた精神病院は、しかし、陰鬱だとか、不気味だとか、そういう雰囲気ではなく、こぎれいで清潔な印象すらあった。ただし、隔離された場所、という性質のせいなのか、中に入ると、妙なよそよそしさと、独特の緊張感に固まった静けさ…

君の代わりに その14

七月に入った京都の街を、僕と「彼女」は抜けて行く、祇園祭の賑やかさに泡立ち始めた通りには、観光客と思しき、街の空気から浮き上がった人たちが、キョロキョロとして歩いていた。そういう人たちの、顔、声、息づかい、体温によるいきれ、肌を湿らす汗、…

君の代わりに その13

しばらく、というか、けっこう長い間、「彼女」は実際にそうすることを躊躇していた。母親に会いに行く、と宣言はしたものの、無理もないかな、もう子供の頃から、ずっと避け続けてきた相手なのだ。旅館でだらだらしたり、四条三条界隈をぶらぶらしたり、ち…

君の代わりに その12

六月、二十七日 観光客でいることにも疲れてきて、「彼」とバーに行ってみる。雰囲気はとてもよくて、カクテルも美味しい。 知らない土地で、こういう、観光客がいない所に行くと、本当に誰でもない人間に近づける気がする。観光客である間は、観光客という…

君の代わりに その11

部屋に戻ったとき、「彼女」はいなかった。トイレかシャワーかと思ったが、物音はしていない。まあ、僕が帰ったのは彼女が出たすぐ後だったし、「彼女」がコンビニにでも寄り道していたら僕のほうが先に部屋に戻るのも当然だと考えながら、窓際のイスにもた…

君の代わりに その10

「飲みに行かない?」 三日目の夜、「彼女」がそう言い出した。この三日間、東山、祇園、嵐山と、とりあえず誰もが思いつく京都の観光地で、旅館の近辺にある所は回ってしまい、明日くらいからやや間延びした旅になるんじゃないかと思っていた矢先なので、ち…

君の代わりに その9

書き終えてみて、僕は、結局これは失敗だなと思う。はじめから分かっていたことだが、この日記は、「彼女」の口を借りて、実際には僕が僕の考えを垂れ流しているにすぎない。それらしく書いてみようとがんばったものの、これは「彼女」ではない。じゃあどい…

君の代わりに その8

六月、二五日。 京都へ。 行き先は決めていなかった。日記を依頼した「彼」と一緒に、とりあえずどこかへ行く、そう決めていただけだった。 その場で行き先を決め、あきれている彼を引き連れるように、新幹線に乗る。西へ、五百キロ、二時間と少し。私は窓の…

君の代わりに その7

できる限りのベタがいい、という「彼女」の要望で、やって来たのは金閣寺、僕らは周囲の観光客からは控えめな位置に立って、池の向こうに浮かぶ金閣を眺めていた。入場券を買うとき、人と喋れない「彼女」はやはり僕の後ろに隠れてじっと宙を見つめていた。…

君の代わりに その6

「良かった、思ってたよりいい旅館で」 部屋の外にある小さな庭を前に立ち、「彼女」が呟く。緑にぎやかな初夏の庭に、ピンク色のアジサイが鮮やかで、「彼女」はじっとそれを眺めていた。アジサイは、おしゃべりする年頃の娘たちのように、かすかな風に揺ら…

君の代わりに その5

どこへ行こう、と「彼女」は言う。相変わらず驚かされることばかりだが、「彼女」は当日になってもはっきりと行き先を決めていなかったのだ。まさかそんな無計画とは思ってもみなかった僕は、さあ、と首を傾げる、そんなにとっさに、旅行先なんて考えつくも…

君の代わりに その4

「彼女」は、じっと窓の外を見つめながら、そこに座っていた。レースの入った真っ黒いワンピースを着て、これまた真っ黒いつば広のキャペリンをかぶっている。服を着ている人間というより、服に収まった人形のようで、その容貌にしろ肌の質感や色にしろ、奇…

君の代わりに その3

そして、僕は「彼女」と出会うことになる。貯金の底が見え始め、それまで脳天気を決め込んでいた僕の、額にじわじわ冷たい汗がにじみ始めたころだった。 「彼女」の依頼は、六月の始め、直筆の手紙とともに僕のとこに舞い込んだ。いつもはチラシしか入ってい…

君の代わりに その2

といったような感じで人生を投げ捨てたものの、僕の心臓はまだ動いていて、呼吸も続いている。死にたいと思ってるわけじゃないから、死なずにすむように、生活費を稼ぐ必要があった。唐突だけど、ここでひとつ。自分で言うのもなんだが、僕は詩人だ。もとも…

君の代わりに その1

「自由になりたいんだ」 長い沈黙の後でそう言った僕を見て、ユミは「もはやお手上げ」、「全部あきらめた」といった調子でため息をついた。もはや涙すらない。乾いた冷たい視線を僕に注いで、再び、ため息。まあ、無理もないのかもしれない、いきなり公務員…

拷問

お前が今何を聞かれているのかを考えろ。 俊介はもう何度そう言われたのか分からないくらいになっていてそれはすでに満腹の胃に食べ物を押し込まれているような感覚そのものだった。もうやめてくれと俊介は三人の男達に哀願するけれども全く無視されてただ聞…