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Re: Writing Machine

Teoreamachineの小説ブログ

最も純粋な子供達のために その2

 

 目の前に裸で横たわる少女のまだ膨らみはじめたばかりの胸から脂肪も筋肉もほとんど付いていない腹部の下のへそへとその太く短い指をはわせながら桐原和弘はため息をついた。ゆっくりとした呼吸でそのきめ細かく滑らかな幼い肌に包まれた胸を上下させる白澤歩は静かな光を湛えた目でそれを見ているが表情にはどこか無関心な様子が表れている。加齢でややたるんだ腹の下でコンドームにくるまれたままのペニスをぶら下げた桐原和弘は右手で体を支えながら起き上がり鈍い動作でティッシュを数枚取ると滑稽なくらいに縮んだペニスにあてがいラテックスを引っ張って外した。ゴミ箱にそれを捨てた桐原和弘は白澤明歩に背を向けてベッドに腰掛ける体勢になり再びため息をついた。白澤明歩は何も言わずに仰向けになったままラブホテルの部屋の鏡張りの天井を見つめている。

 いや。悪いね。ため息ばかりついて。

 桐原和弘は振り返ってそう言いながら演技じみた微笑みを浮かべてみせる。白澤明歩は黙ったまま気のない様子でうなずいただけだった。

 明歩ちゃんとのセックスは本当に気持ちいいよ。明歩ちゃんと出会ってから僕は失われていた男としての本能を思い出せた気がする。体が興奮で熱くなって勃起が止まらなくなるような感じなんだ。妻とはもう何年もセックスなんかしてないし今までは他の女性と浮気するようなチャンスもなかった。だから明歩ちゃんが僕の前に現れてからは何の喜びもなく死んだような日々を過ごしていた自分が急によみがえったような気がしてるんだ。普通の風俗よりずっとお金もかかるからたまにしか会えないけど明歩ちゃんといるときはとても幸せだよ。

 そう言いながら桐原和弘はためらいがちに手を伸ばし小さくて色の薄い白澤明歩の手を握ったが白澤明歩は微動だにせず唇をわずかに開けて静かに呼吸をしていた。

 明歩ちゃんは中学生だったかな?

 桐原和弘は機嫌を伺うかのような言い方で質問する。白澤明歩は言葉を発することなくうなずきを返した。しばらくの沈黙の後うつむいたまま何かを考え込んでいる様子だった桐原和弘が再び白澤明歩のほうを向いて口を開く。

 僕にも中学生の息子がいるんだ。明歩ちゃんと同い年かな。

 それを聞いた瞬間に白澤明歩が頭をわずかに動かして桐原和弘の顔を見た。唇を軽く結んで湿らせた以外には一度まばたきをしただけだったが今までとは違い何らかの関心を引かれた様子だった。その反応に桐原和弘の声も調子づいたように少し大きくなる。

 息子についてはとても奇妙な感覚を抱いてる。一般的に言っても父親にとって息子というのは厄介なものだけどうちの息子の場合はちょっと別なんだ。普通の親子だったら父親にとって息子というのは実はとても分かりやすい単純なものでただ単に関わり方が分からないということが問題になるだけなんだ。でもうちの息子はそんなんじゃなくて本当に複雑なんだ。異常なまでに頭が良くてあらゆる物事を見透かしてる。僕は父親の威厳を保ちたいばかりにいつも虚勢を張っているけどあいつはそんなのお見通しで完全に僕を軽蔑しているんだ。僕だけじゃない。親や教師とか周りの大人なんかより遥かに頭が良くてあいつはこの世のありとあらゆるものを軽蔑してる。

 横目で白澤明歩を見た桐原和弘はそこで口ごもる。

 ごめん。こんなの退屈な話だね。

 白澤明歩は横に首を振って答える。

 そんなことない。続けて。

 桐原和弘は母親に叱られた後で許してもらった子供のような態度で力なく微笑む。そこで一呼吸置くとまた話を始めた。

 もちろんいくらかは息子のうぬぼれにすぎないけどしかし同時にうぬぼれざるを得ない天賦の才能が備わっているのも事実だ。正直言ってなんであいつが僕の息子なのか理解ができない。鳶が鷹を生むなんてもんじゃない。あいつは怪物だ。僕は自分の息子が恐ろしくてしょうがない。妻もそんな僕の体たらくを見抜いて僕を軽蔑してる。他の父親がそうである以上に家族の誰も僕を尊敬してないしむしろ軽蔑してるんだ。ねえ明歩ちゃん。こんな僕をどう思う?情けないって感じるかな?

 ……わからない。

 白澤明歩はほとんど聞こえないような声で答えた。

 桐原和弘はそこでまた口ごもりうつむいて何かを考えていた。

 明歩ちゃんはセックスについて自分の親に何か訊いたことある?

 意味ありげに視線を泳がせただけで白澤明歩はほとんどその質問を無視するように黙った。

 僕の息子はね。変なやつだよ。まだ小学校三年生のときだったけどある日突然父親に訊いたんだ。お父さんとお母さんはどうして僕の目の前でセックスしないのって。動揺をごまかすために激怒してそんなこと言うもんじゃないって怒鳴ってみせたけどあいつは平然として気持ちの悪い薄笑いを浮かべてた。あいつはこっちの反応を完全に予測してただけじゃなくて何らかの意図があってその質問をしたんだと思う。でも未だに何でそんなことをわざわざ訊いたのか分からないんだ。あいつはいったいどうしてそんな質問をしたんだろう?

 桐原和弘と目が合った白澤明歩はそんなの私にはわからないよと言って体を起こしベッドの脇に落ちていた服を着ようと拾い上げる。

 待って。

 桐原和弘はほとんど哀願するような調子の声でそう言って白澤明歩の背中に抱きついた。じわじわと大きくなるペニスの先を白澤明歩の肛門の辺りに押し付けて腰を少しだけくねらせる。

 もう一回できないかな?お金は倍出すから。

 白澤明歩は窓の方を見つめながら外から聞こえる盲人用信号機の出す音をじっと聴いていたがやがて小さなため息とともにかすれたような声で先払いでお願いと言った。

 

 鼻息を荒くして新しいコンドームをペニスに装着する作業に没頭する桐原和弘を見つめながら白澤明歩は今私は心からあなたを軽蔑してるという言葉を飲み込んで押し黙る。

 

 

最も純粋な子供達のために その3へつづく――