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Re: Writing Machine

Teoreamachineの小説ブログ

最も純粋な子供達のために その13

  

 いつら全員ぶっ殺したらおもしれえだろうなあ。

 駅前の大きな横断歩道を往来する人々を見ながら市田恵介が呟く。

 殺すのかよ。もったいねえな。あの娘すげえ可愛いじゃん。俺はあの娘とやりてえよ。

 新山翔が目の前を歩く少女の体をなめ回すように観察しながら言う。

 両方やればいいんだよ。邪魔なヤツは全部殺して可愛い女は横断歩道の上で犯すんだ。

 水城康太が吸っていた煙草を地面にこすりつける。

 横断歩道の上ってどんな発想だよ。

 篠原雅彦はそう言って笑った。

 こういう街中に群れてる連中って放牧された家畜みてえだよな。どいつもこいつもみんな一緒に見える。俺たちからすればこいつらは名前も無くてぞろぞろとあっちこっちに移動してるだけの風景の一部みたいなもんだ。

 市田恵介がそう言いながら立ち上がる。

 市ちゃんどっか行くん?

 新山翔が市田恵介を見上げる。

 何か良いアイデアあったらどっか行こうや。ここおってもつまらんし。

 水城康太も立ち上がった。

 康太の言う通りやな。市ちゃんどうや?

 座りっぱなしだった体をストレッチしながら篠原雅彦が訊く。

 俺めっちゃクラブ行きたいと思ってたんやけど。

 クラブかあ。良いなあ。俺も行ってみたいわ。

 市田恵介の言葉に新山翔が賛同を示す。

 でも俺らまだ十四歳やん。見た目おっさんやったら良いけど俺らみたいなんは入り口で止められるやろ。

 そうやなあ。

 水城康太と篠原雅彦がため息をついた。

 良いこと思いついたわ。俺。

 市田恵介が他の三人の顔を見る。

 何?

 他の三人も市田恵介の顔を見る。

 適当にリーマン襲ってスーツと免許書奪ってやったらいいんじゃね?

 ああ。それ良いかも。

 スーツ着とったら大人にみえるやろうし。免許書あったら止められてもそれ出したらいけるし。

 市ちゃん。それでいこうや。

 

 

 四人は夜の飲屋街の路地でたむろしながら酔っぱらったスーツ姿の男を立て続けに襲った。金と免許書を財布ごと奪い取り剥ぎ取ったスーツを持って公園のトイレに駆け込むとそこで着替えを始める。

 おい。

 市田恵介が隣の個室の新山翔に声をかけた。

 どしたん?

 ネクタイの絞め方知ってるか?

 あ。それ今訊こうと思ってたんやけど。

 新山翔の隣の個室にいた水城康太が話の間に入る。

 俺も分からん。

 さらに隣の篠原雅彦が言う。

 みんな分からんのか。

 あきれた様子で市田恵介が笑う。

 そうみたいや。

 もうわざわざネクタイせんでも良くね?

 そうやわ。スーツでもう充分大人に見えるし。クラブにきっちりネクタイ絞めていくのもおかしいやん。

 雅くんの言う通りや。もうこれでいこうや。

 市田恵介がドアを開けて個室を出る。続いて新山翔と篠原雅彦も個室を出て来た。最後に現れたのは水城康太だったがその姿を見て他の三人が笑い声を上げる。背の低い水城康太には盗んだスーツが大きすぎて手の半分が袖で隠れてしまっておりかなり不格好になっていた。

 康太。そりゃ逆効果や。

 市田恵介が言う。

 ちょっと大人には見えんな。

 新山翔が水城康太の長過ぎる袖をつまんだ。

 笑うなや。

 水城康太が不機嫌そうに舌打ちをする。

 せめて袖まくったらいいんちゃう?

 篠原雅彦が水城康太の袖を折り返して丁度良い長さにする。

 ちょっとヤバイわ。康太。冗談抜きで大人に見えん。

 髪型変えたらどうやろ。

 どんな髪型にするんだよ。

 オールバックやろ。一番歳いって見える。

 四人はドラッグストアに言って整髪料を買い水城康太の髪を撫で付けオールバックにした。

 まあギリでオーケーじゃね?

 市田恵介が水城康太の姿を品定めするように見ながら言う。

 眉間にしわ寄せとけ。康太。そしたらもうちょっと歳いって見える。

 こうか?

 お。いい感じやん。

 篠原雅彦にそう言われて水城康太は得意顔になり眉間にしわを寄せたまま周囲を威圧するような態度を取る。それを新山翔がにやにやしながら見ていた。

 そんなら行こうか。

 市田恵介の目配せに他の三人がうなずきを返した。

 

 

 四人は最近オープンしてから急激に人気を集めているクラブであるBabelにやって来た。店の前には浅黒い肌をした彫りの深い顔の屈強なイラン人の男が二人で立っており入ってくる客の年齢をチェックしている。怖じ気づいた様子の四人は入り口の手前で立ち止まり互いの顔を見合わせる。

 本当に大丈夫かこれ?

 屈強な男達から気付かれないようにしながら市田恵介が他の三人に話しかける。

 正直やばくね?何かガイジン立ってんだけど。

 新山翔が不安そうな顔で同意を求めた。

 でも俺たち免許証持ってんだぜ。

 水城康太はもしクラブに入るのをあきらめた時に自分が一番幼く見えるせいにはされたくないとばかりに強気な態度を取る。

 まあ日本人は幼く見えるって言うじゃん。そういう言い訳すりゃガイジンも納得すんじゃね?

 篠原雅彦がそれを後押しするような意見を言う。

 よっしゃ。行こうぜ。せっかくここまで準備したのにあきらめてたまるか。

 市田恵介が気合いの入った声で檄を飛ばす。

 マジかよ。

 行くしかねえだろ。

 ここまで来たらダメもとだ。

 四人がどうにか平静を装いながらBabelの入り口を通過しようとすると水城康太の倍くらいの大きさをした体を持った男がそれを遮った。

 十八未満ダメだよ。

 男が脅しを効かすような太く低い声で警告する。

 知ってるよ。

 一瞬ひるんだ様子を見せつつも何喰わぬ顔で市田恵介を始めとする四人がいっせいに免許書を差し出した。

 一つ一つその免許証を精査するように見つめた後で男は突然笑い出し手にした免許証を四人に向かって投げつけた。

 お前達私のことだますならもっと上手にやりなよ。

 だましてねえよ。

 市田恵介が疑われたことに憤慨したかのような態度を見せる。

 だってお前達どう見ても三十五歳とか四十二歳とかじゃないだろ。

 新山翔が免許証を見てみるとその中に明らかに中年顔の男の写真が付いていて生年月日も昭和四十年代のものが混じっていた。

 かなり若く見られるけどそれでも俺らはその年齢なんだよ!

 もはや滑稽でしかなかったが今さら引き下がれないとばかりに水城康太が無茶を言う。

 俺らは日本人だから若く見えんだよ!

 篠原雅彦がそう付け加えると男はもう我慢できないとばかりに腹を抱えて笑う。

 若いじゃないよ。お前達子供じゃないか。

 そう言って笑い続ける男の様子を見て隣に立っていた仲間がどうしたのかと状況を尋ねる。男がそれを説明すると仲間の男も大声で笑い出した。

 くそが。

 市田恵介が呟いて拳を握りしめるがたとえ四人掛かりで喧嘩を売っても屈強な二人の男から返り討ちに合うことは明らかだった。

 四人がもはやあきらめかけたとき店の奥から出て来た男が騒ぎに気付いて立ち止まりその様子を注視していた。

 What's wrong?

 不気味な光をその目に湛えた男が二人の屈強なイラン人に尋ねる。

 あ。桐原さん。こいつらだめだよ。子供なのにBabelに入りたいって。

 その男桐原玲がそれを聞いて笑う。

 お前らいくつだ?正直に言ってみろ。

 そう訊いた桐原玲の態度は相手をとがめようとするようなものではなかった。四人は嘘をつき通すかそれとも正直に言った方が良いのか決めかねているかのようにすっかり沈黙してしまった。

 別に警察に突き出したりしないよ。

 四人を懐柔するような言い方をして桐原玲が微笑む。

 十四歳だよ。悪かったな。

 正直すぎるくらいにそう言い放った市田恵介を他の三人が驚きの目で見る。桐原玲は市田恵介の言葉に好意的な姿勢を示すかのようにうなずく。

 免許証とそのスーツはどうした?

 酔っぱらったアホなリーマンをボコって盗んだ。

 普段からそんなことしてんのか?

 たまに。でも今日はどうしてもクラブに行きたかったから。

 桐原玲は満足そうに微笑む。

 付いて来い。

 桐原玲が四人に向かって手招きをする。四人は戸惑いの表情で桐原玲を見つめる。

 中に入れてやるよ。ただ表から堂々と入るのはまずいんで裏からVIP席に招待してやる。

 え。いいんすか?

 予想外の出来事に面食らって市田恵介がむしろ遠慮するような態度を見せた。

 ברוכיםהבאיםמגדלבבל

 何て言ったんすか?

 ヘブライ語で喋った桐原玲に新山翔が聞き返す。

 何でも無い。とにかく付いて来い。

 そう言って前を歩く桐原玲に四人は恐る恐る付いて行った。水城康太が後ろを振り返ると二人の屈強な男達は首を傾げながら足下の免許証を拾い上げそれをポケットにしまい込んでいた。

 桐原玲は巨大な蛇を思わせるような雰囲気を持つ男だった。鳥肌が立つような殺気と狡猾さと残忍さがうかがえる冷たい表情をしていた。建物の裏に回りそこにあるドアを開けて桐原玲が振り返る。闇の奥で光るその目を見た篠原雅彦は背筋を走る悪寒に思わず身震いしてしまった。

 

 

最も純粋な子供達のために その14へつづく――