Re: Writing Machine

Teoreamachineの小説ブログ

2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

最も純粋な子供達のために その7

桐原玲と白澤明歩が売春相手を探すのはたいていが出会い系サイトだった。プロフやSNSを使って誘いをかけるような人間は小賢しいことをしそうで敬遠していたし街角で直接声をかけるのもリスクが高いと判断した。売春相手として選んでいたのは定職についていて…

最も純粋な子供達のために その6

三日ぶりに家に帰って来た桐原玲と廊下ですれ違った桐原和弘は何か言いたげな顔で息子を見ていたが結局何も言い出せずに突っ立ったままその姿を見送った。深いため息をついて桐原和弘が居間に入ると不機嫌そうな顔の桐原由美が座っていて目が合った瞬間その…

最も純粋な子供達のために その5

久しぶりに路地裏で刺し殺した中年男をしばらく見つめていた桐原玲は血まみれのスーツの襟首をつかんで引っ張り上げると暗く冷たいアスファルトの道の上でその死体をずるずると引きずって通りの方へ歩き始める。薄い毛の生えた死体の頭にべっとりと付いた血…

最も純粋な子供達のために その4

放課後教室から出た桐原玲は非常階段を降りた所に立っている白澤明歩を見つけて微笑んだ。 待ってたのか。 別に。 一緒に帰るか? うん。 それから二人は川沿いの道をほとんど言葉を交わさずに歩いて白澤明歩の住むアパートの一室へとたどり着いた。四つだけ…

最も純粋な子供達のために その3

朝から上がり続けた気温は摂氏四十度近くまで達し冷房の効いていない教室は湿気をたっぷり含んだ熱い空気が漂い呼吸するのも不快なほどになっていたが桐原玲は汗一つかかず平然とした顔で机に座り担任の森岡健二を待っていた。便所に行くと言って教室を出て…

最も純粋な子供達のために その2

目の前に裸で横たわる少女のまだ膨らみはじめたばかりの胸から脂肪も筋肉もほとんど付いていない腹部の下のへそへとその太く短い指をはわせながら桐原和弘はため息をついた。ゆっくりとした呼吸でそのきめ細かく滑らかな幼い肌に包まれた胸を上下させる白澤…

最も純粋な子供達のために その1

桐原玲は夜の街を歩きながらすれ違う全ての人を殺すことを想像していた。例えばショートケーキのような白色のトレンチコートがとてもよく似合っている黒髪の女の目玉をくり抜き肉厚で愛らしい珊瑚色の唇を切り取って喰いながら髪を剃り皮膚を裂いて頭蓋骨を…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その4

もうこの国で座り込みのデモをやめる時が来ている。何人かの貧乏白人上院議員、北部と南部の貧乏白人どもには、ワシントンDCに座り込みのデモをやってもらえば良い。そのうち、我々が公民権を手にすべきだという結論に至ることだろう。私に対して私の権利…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その3

このくらいの領域になってくれば、我々には新たな友人、新たな連帯が必要になる。公民権運動をもっと高い水準、人権という水準まで広げる必要がある。公民権運動ということでもってやっている限り、あなたが自覚していようがいまいが、あなたはアメリカ司法…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その2

一週間前の木曜日、私はワシントンDCにいた。そこでは、連中が公民権の法案を俎上に乗せるか否かを議論していだのだ。上院議員が会議を行う部屋の後ろには大きなアメリカの地図があり、黒人の分布図が描かれていた。南部を見てみると、そこではほとんどが…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その1

穏健主義者諸君、ロマックスを始めとする我が兄弟姉妹のみんな、友人たち、そして敵であるあなた方へ。 ここにいるみんなが友人だとは信じられないが、しかし誰一人として追い出したいとは思わない。今夜お話しすべきは、「黒人による反乱について、そして私…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その3

47ヶ国が集まりカイロで開催された第2回非同盟諸国首脳会議において、全会一致で採択されたことを読み上げよう。 国家への圧力と、自身のイデオロギー、政治、経済、文化的思想に基づく解放と発展の阻止の手段として実用される外国の軍事基地という懸案事…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その2

ここで支持を得た方策が、効果を発揮し、もはや言うまでもないようなことになったとしても、アメリカ合衆国が我々の領域内で攻撃態勢にある基地を維持する限りは、どのような地域協定も維持することはできないと指摘しておかなればならない。その領域とは、…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その1

特別使節より国家の代表たる皆様へ この総会へ招かれたキューバの使節としてまず第一に、世界の問題について議論するこの国連へ三ヶ国の新たなメンバーを歓迎する役目を仰せつかったことを喜ばしく思う。ザンビア、マラウイ、マルタからお越しの大統領及び首…

『君を想う、死神降る荒野で』 最終回

空港にて、ゼロシキは搭乗ゲートでイスに座り、外を飛んでいる飛行機を見つめていた。天井も壁も全てフラーレンダイヤモンドでコーティングしたガラス張りになっているので、視界が空までひらけているのだ。太陽を背にした流線型の影が、頭上を横切っていく…

『君を想う、死神降る荒野で』 その42

クロガネが目の見えない生活に慣れてきたこともあり、いろいろとその世話を焼いていたナルセは、ようやく研究所に戻ることができた。肩書きは所長だったが、死神との戦いが終わった今、実際のその仕事は《機械》に関するデータの整理とその処分だった。《機…

『君を想う、死神降る荒野で』 その41

歌が聞こえていた、塔をゆっくり上昇していくエレベーターの中で、ゼロシキは耳を傾ける。クロガネの妹、ハルミの母親が好きだった歌だ。最初の《機械》にハルミの魂を移植したとき、どういうわけかそこに記憶も入り込んでしまったのだという。ハルミの虚無…

『君を想う、死神降る荒野で』 その40

そして、ゼロシキは目を覚ます。 ひどく体が重くて、ずっと寝ていたせいでこわばった筋肉が上手く動かせない。喉が渇いて、眼の奥をかすかな痛みが光の瞬きのように刺激した。どうにかして体を起こしたゼロシキは、そこでやっと、誰かが自分の手を握っている…

『君を想う、死神降る荒野で』 その39

俺は、震える右手を見つめていた。手の甲の皮膚が裂け、流れた血が乾いている。指の先にも血が付いているが、これは俺の血じゃない。初めて人を殴った俺は、恐怖と興奮で体を震わせていた、橋の下でコンクリートの壁を背にして座り込み、呆然としていたのだ…

『君を想う、死神降る荒野で』 その38

――いつも、同じ言葉。 「ああ、そうか」 急に呟いたクロガネのほうを、ナルセが振り返る。クロガネはハルミの残した電子ノートを手に取って、じっと見つめていた。 「どうかしたのか?」 「いや、分かったんだ」 「分かった?」 「ハルミが言っていた、この…

『君を想う、死神降る荒野で』 その37

「……その歌、いったいどこで聞いたんだ?」 ある日、ハルミが歌を口ずさんでいるのを耳にしたクロガネが、驚いた顔をしながらそう尋ねた。 「どこだろう。分かんない、でも、ずいぶん前から知ってる歌だね、本当にもの心ついたときから、ときどき僕の頭に浮…

『君を想う、死神降る荒野で』 その36

「ハルミに、何をした?」 そう言ったクロガネの唇は、怒りで震えていた。部屋の中で異様な緊張感が漂い、タチバナは圧迫感で息がつまりそうになる。キドは小さく、しかし長く、息を吸い、そして吐いてから、黒い舌をちろちろと出して青紫の唇をなめていた。…

『君を想う、死神降る荒野で』 その35

――お母さん? 幼いキドは、部屋の隅にうずくまっている母親を見つめていた。落ち窪んだ目の周りは墨を塗りたくったようにくすんで、視線は床の一点に釘付けになっている。かすかに首をゆらしながら、口に泡をためて、聞いたこともない奇妙な言葉をぶつぶつと…

『君を想う、死神降る荒野で』 その34

「ヒヒヒ、ひどいなあ。こんなふうにドロボーしちゃってえ。い・け・な・い・よおおおお?」 だらんとぶら下げた腕の先で、指をからませるようにぐねぐねと動かしながら、キドは笑っている。タチバナは慎重に身構えながら、キドの余裕の正体を探ろうとしてい…

『君を想う、死神降る荒野で』 その33

「分かるだろう、私は、完全に地獄に堕ちてしまった」 話を終え、クロガネはため息を吐く。何か、全てをあきらめてしまったような顔をしていた。 「いや、まだ希望はあるよ」 ナルセが首を横に振って答えた。 「希望? もう、私にできることは残されてはいな…