Re: Writing Machine

Teoreamachineの小説ブログ

2013-01-01から1年間の記事一覧

最も純粋な子供達のために その2

目の前に裸で横たわる少女のまだ膨らみはじめたばかりの胸から脂肪も筋肉もほとんど付いていない腹部の下のへそへとその太く短い指をはわせながら桐原和弘はため息をついた。ゆっくりとした呼吸でそのきめ細かく滑らかな幼い肌に包まれた胸を上下させる白澤…

最も純粋な子供達のために その1

桐原玲は夜の街を歩きながらすれ違う全ての人を殺すことを想像していた。例えばショートケーキのような白色のトレンチコートがとてもよく似合っている黒髪の女の目玉をくり抜き肉厚で愛らしい珊瑚色の唇を切り取って喰いながら髪を剃り皮膚を裂いて頭蓋骨を…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その4

もうこの国で座り込みのデモをやめる時が来ている。何人かの貧乏白人上院議員、北部と南部の貧乏白人どもには、ワシントンDCに座り込みのデモをやってもらえば良い。そのうち、我々が公民権を手にすべきだという結論に至ることだろう。私に対して私の権利…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その3

このくらいの領域になってくれば、我々には新たな友人、新たな連帯が必要になる。公民権運動をもっと高い水準、人権という水準まで広げる必要がある。公民権運動ということでもってやっている限り、あなたが自覚していようがいまいが、あなたはアメリカ司法…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その2

一週間前の木曜日、私はワシントンDCにいた。そこでは、連中が公民権の法案を俎上に乗せるか否かを議論していだのだ。上院議員が会議を行う部屋の後ろには大きなアメリカの地図があり、黒人の分布図が描かれていた。南部を見てみると、そこではほとんどが…

マルコムX 『投票か闘争か(The Ballot or The Bullet)』 その1

穏健主義者諸君、ロマックスを始めとする我が兄弟姉妹のみんな、友人たち、そして敵であるあなた方へ。 ここにいるみんなが友人だとは信じられないが、しかし誰一人として追い出したいとは思わない。今夜お話しすべきは、「黒人による反乱について、そして私…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その3

47ヶ国が集まりカイロで開催された第2回非同盟諸国首脳会議において、全会一致で採択されたことを読み上げよう。 国家への圧力と、自身のイデオロギー、政治、経済、文化的思想に基づく解放と発展の阻止の手段として実用される外国の軍事基地という懸案事…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その2

ここで支持を得た方策が、効果を発揮し、もはや言うまでもないようなことになったとしても、アメリカ合衆国が我々の領域内で攻撃態勢にある基地を維持する限りは、どのような地域協定も維持することはできないと指摘しておかなればならない。その領域とは、…

チェ・ゲバラ国連演説全訳 その1

特別使節より国家の代表たる皆様へ この総会へ招かれたキューバの使節としてまず第一に、世界の問題について議論するこの国連へ三ヶ国の新たなメンバーを歓迎する役目を仰せつかったことを喜ばしく思う。ザンビア、マラウイ、マルタからお越しの大統領及び首…

『君を想う、死神降る荒野で』 最終回

空港にて、ゼロシキは搭乗ゲートでイスに座り、外を飛んでいる飛行機を見つめていた。天井も壁も全てフラーレンダイヤモンドでコーティングしたガラス張りになっているので、視界が空までひらけているのだ。太陽を背にした流線型の影が、頭上を横切っていく…

『君を想う、死神降る荒野で』 その42

クロガネが目の見えない生活に慣れてきたこともあり、いろいろとその世話を焼いていたナルセは、ようやく研究所に戻ることができた。肩書きは所長だったが、死神との戦いが終わった今、実際のその仕事は《機械》に関するデータの整理とその処分だった。《機…

『君を想う、死神降る荒野で』 その41

歌が聞こえていた、塔をゆっくり上昇していくエレベーターの中で、ゼロシキは耳を傾ける。クロガネの妹、ハルミの母親が好きだった歌だ。最初の《機械》にハルミの魂を移植したとき、どういうわけかそこに記憶も入り込んでしまったのだという。ハルミの虚無…

『君を想う、死神降る荒野で』 その40

そして、ゼロシキは目を覚ます。 ひどく体が重くて、ずっと寝ていたせいでこわばった筋肉が上手く動かせない。喉が渇いて、眼の奥をかすかな痛みが光の瞬きのように刺激した。どうにかして体を起こしたゼロシキは、そこでやっと、誰かが自分の手を握っている…

『君を想う、死神降る荒野で』 その39

俺は、震える右手を見つめていた。手の甲の皮膚が裂け、流れた血が乾いている。指の先にも血が付いているが、これは俺の血じゃない。初めて人を殴った俺は、恐怖と興奮で体を震わせていた、橋の下でコンクリートの壁を背にして座り込み、呆然としていたのだ…

『君を想う、死神降る荒野で』 その38

――いつも、同じ言葉。 「ああ、そうか」 急に呟いたクロガネのほうを、ナルセが振り返る。クロガネはハルミの残した電子ノートを手に取って、じっと見つめていた。 「どうかしたのか?」 「いや、分かったんだ」 「分かった?」 「ハルミが言っていた、この…

『君を想う、死神降る荒野で』 その37

「……その歌、いったいどこで聞いたんだ?」 ある日、ハルミが歌を口ずさんでいるのを耳にしたクロガネが、驚いた顔をしながらそう尋ねた。 「どこだろう。分かんない、でも、ずいぶん前から知ってる歌だね、本当にもの心ついたときから、ときどき僕の頭に浮…

『君を想う、死神降る荒野で』 その36

「ハルミに、何をした?」 そう言ったクロガネの唇は、怒りで震えていた。部屋の中で異様な緊張感が漂い、タチバナは圧迫感で息がつまりそうになる。キドは小さく、しかし長く、息を吸い、そして吐いてから、黒い舌をちろちろと出して青紫の唇をなめていた。…

『君を想う、死神降る荒野で』 その35

――お母さん? 幼いキドは、部屋の隅にうずくまっている母親を見つめていた。落ち窪んだ目の周りは墨を塗りたくったようにくすんで、視線は床の一点に釘付けになっている。かすかに首をゆらしながら、口に泡をためて、聞いたこともない奇妙な言葉をぶつぶつと…

『君を想う、死神降る荒野で』 その34

「ヒヒヒ、ひどいなあ。こんなふうにドロボーしちゃってえ。い・け・な・い・よおおおお?」 だらんとぶら下げた腕の先で、指をからませるようにぐねぐねと動かしながら、キドは笑っている。タチバナは慎重に身構えながら、キドの余裕の正体を探ろうとしてい…

『君を想う、死神降る荒野で』 その33

「分かるだろう、私は、完全に地獄に堕ちてしまった」 話を終え、クロガネはため息を吐く。何か、全てをあきらめてしまったような顔をしていた。 「いや、まだ希望はあるよ」 ナルセが首を横に振って答えた。 「希望? もう、私にできることは残されてはいな…

『君を想う、死神降る荒野で』 その32

息を潜め、おぞましい壁の向こうの光景をできるだけ見ないようにしながら、タチバナは精神病棟を進んでいく。闇夜にうごめく猫のような柔らかく素早い動きで、気配を消して、足音を立てないように、奥へ、奥へ。タチバナにはどうしてもやらなければならない…

『君を想う、死神降る荒野で』 その31

ユキの妊娠が分かったのは、私が外国へ行ってしまったすぐ後だった。ある日突然気分が悪くなり、母親に病院に連れて行かれ、そして検査の結果それが判明した。赤ん坊の父親が誰なのか、ユキはなかなか喋ろうとはしなかった、言えば私に迷惑がかかると思って…

『君を想う、死神降る荒野で』 その30

いつか、ナルセがそうしてくれたように、クロガネはナルセにコーヒーを淹れてやり、テーブルの上に置く。そして二人はそのテーブルを挟んで向かい合い、イスに腰掛けていた。じっと黙っている二人の間で、真っ黒いコーヒーの表面がゆらぎ、白い湯気が漂う。…

『君を想う、死神降る荒野で』 その29

――ずっとそばにいてね、お兄ちゃん……。 もう死んでしまったユキの夢を見てしまい、クロガネは首を絞めてられているかのようにあえぎ、目を覚ます。何度も同じ夢を見ている、決して、忘れることはできなかった。明かりを点けると、枕元に置かれた、半分まで水…

『君を想う、死神降る荒野で』 その28

研究室の、巨大なモニターの前で、誰もが黙りこんでしまっていた。今、そこで起きたことの何もかもが、完全にこれまでの常識の埒外にあった。これまで一匹しかいなかった八つの首の死神の大量の出現、それを殲滅する勢いだったゼロシキの暴走状態に近い圧倒…

『君を想う、死神降る荒野で』 その27

まるで、空が崩れ落ちてくるかのようだった。触手を傘のように開いて、八つの首を反り返らせた死神たちが、スローモーションで地上に降りてくる。まだ生き残っていた少年たちは、晩夏の花火でも見つめているかのような、うっとりとした表情で、理性を麻痺さ…

『君を想う、死神降る荒野で』 その26

「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 薬がもたらした想像以上の力と、それを全て台無しにしてしまうような大量の死神の出現に、それを研究所のモニターで見ながら絶句するクロガネの横で、キドがはしゃいでいる。 「すっごおおい、す…

『君を想う、死神降る荒野で』 その25

――痛い……! 薬の副作用だろうか、あるいは暴走する感情が輻輳し、暴発しそうになっているのか、頭が激しくうずいて、ゼロシキはひどい痛みに苦しんでいた。虚無は全てを圧倒する津波のように荒れ狂い、存在の全てを飲み込むように渦巻き、白く明るく輝いて、…

『君を想う、死神降る荒野で』 その24

真っ白い壁に囲まれた部屋の中で、ゼロシキはキドに面会した。やたらに明るい照明に照らされ、何もかもが白く霞んでいる。明るすぎる部屋は、時に闇の中にいるような感覚を与える。最新技術を駆使して作られた線のように細い注射器の針が、その白い闇に沈ん…

『君を想う、死神降る荒野で』 その23

「……なぜ、そんなことを俺に話すんだ?」 しばらくの沈黙の中、二人は向き合ったままだったが、やがてぽつりとゼロシキが言葉を漏らす。 「知っておいて欲しいと思ったから。死神に家族を殺されたコも多いけど、そうじゃないコもいるんだよ。そして、そうい…