Re: Writing Machine

Teoreamachineの小説ブログ

2013-01-01から1年間の記事一覧

『君を想う、死神降る荒野で』 その22

……私、お兄ちゃんがいたの。二つ年上で、小さい頃はすごく元気がよくて、あっちこっち遊んで回ってる感じの子供だった。反対に、私は引っ込み思案で、あんまり外に出て遊んだりはしなかった。親が厳しかったっていうのもあるかな、それに治安も悪くなってる…

『君を想う、死神降る荒野で』 その21

「今回は残念だったな」 しばらく頭痛に悩まされ、医務室に寝たきりのまま、ようやく回復したゼロシキの目の前に現れたクロガネが、開口一番にそう言った。無機質な医務室のベッドの上にいるゼロシキの横に座ったクロガネは、不治の病でも宣告しに来た医者の…

『君を想う、死神降る荒野で』 その20

――おかえり。 クロガネが大学から帰ってくると、いつもユキは静かにそう言って出迎えた。おぼつかない動きで手のひらを動かす、そのユキの手を、クロガネがそっと包むように握る。ユキは笑顔になり、その手でクロガネの顔に触れ、その感触を確かめると、よう…

『君を想う、死神降る荒野で』 その19

廃墟。そこは確かに廃墟だったが、かつての超高級住宅街だけあって、建ち並ぶ家はどれも豪華で美しいデザインになっている、それだけでなく、大きさもかなりのもので、しばらく歩かないとその全体像が分からないくらいだった。建物自体は全く風化していない…

『君を想う、死神降る荒野で』 その18

もし、地獄の鬼がアクアリウムを持っているとすれば、それはちょうどこんな感じだろうか――クロガネはそんなことを思う。目の前にあるガラスのしきりの向こうでは、悪趣味極まりない「実験」が行われている。ミノムシのようにぶら下がった精神病患者たちが、…

『君を想う、死神降る荒野で』 その17

クロガネから連絡を受け呼び出されたゼロシキは、約束したとおり用意された調査団のメンバーと顔を合わせる。調査団を構成するメンバーは音響や心理学、脳科学の専門家らしき科学者たちと、その護衛を務める少年たち、そしてゼロシキ、そして――タチバナだっ…

『君を想う、死神降る荒野で』 その16

「ヤマタノオロチみたいですね」 先日の戦闘の映像を分析していたクロガネの背後で、タカマツが呟いた。 「ヤマタノオロチ……か」 クロガネはじっと映像に見入っている。八つの首の死神、あるいはヤマタノオロチは、圧倒的すぎる戦闘能力で少年たちを惨殺して…

『君を想う、死神降る荒野で』 その15

――おかえり、父さん。 ハルミのことを思い出すとき、回想はいつもその言葉から始まる。どうしても、不随意に、その記憶は繰り返して頭に上ってきてしまう。 「ねえ」 「どうした?」 書斎にいたクロガネに、珍しくハルミが話しかけてきたことがあった。自分…

『君を想う、死神降る荒野で』 その14

荒野、その地面をそっと指先でほじくって小さな穴を空けると、そこに《機械》を挿入する。ゼロシキは瞑想するように目を閉じて、ゆっくりと想像力を解放していく。穴からはスルスルと芽が生えてきて葉を広げ、さらに伸びる茎が次第に太く硬くなっていったか…

『君を想う、死神降る荒野で』 その13

東京ヘブンズゲイトから帰って以来、何度か戦場へ出るたび、ゼロシキはかすかな異変を感じていた。どうも、《機械》がしっくりこないのだ、死神と戦う上で、そこまで支障が出ているわけではない、ただ、ときどき《機械》に重みを感じたり、イメージが具現化…

『君を想う、死神降る荒野で』 その12

陰鬱。荒廃した東京は、どこへ行っても気の滅入るような雰囲気が渦巻いている。死神による虐殺が始まって以来、経済的に少しでも余裕のある人間や地方に親戚のいる人間はみんな避難してしまって、あとに残されたのは貧困層ばかりだった。クロガネはかつて繁…

『君を想う、死神降る荒野で』 その11

エレベーターは音も立てずに上昇し続ける、ひどく緩慢なペースで、いったいどのくらいの高さまで来たのか分からない。中は単に鏡張りになっているだけで階層の表示すらない。かつては東京ヘブンズゲイトへの直通エレベーターだったのだろう、しかしこの速度…

『君を想う、死神降る荒野で』 その10

――おかえり、父さん。 ハルミは幼かったころも、研究所の個室に帰ってきたクロガネをその言葉で出迎えていた。個室には幼い子供が暇をつぶせるようなものはなく、研究に関する書籍があるくらいだったが、ハルミはそういったものに強い興味を示し、クロガネが…

『君を想う、死神降る荒野で』 その9

走る、走る、二人はまとわりついてくる死神たちを《機械》で薙ぎはらいながら、塔の入り口に向かって突き進む。入り口に近づくほど死神の数は増えたが、全部普通の死神だったおかげで困難はなかった。ゼロシキは周囲に無数のリングを飛ばしながら、襲いかか…

『君を想う、死神降る荒野で』 その8

――おかえり、父さん。 クロガネが研究所から帰ってくると、いつもハルミは静かにそう言って出迎えた。そしてまたすぐにピアノに向かい、ずっとドビュッシーの曲を弾いている。ハルミの、母親が好きだった曲なのだ、もっとも、ハルミは母親の面影など全く記憶…

『君を想う、死神降る荒野で』 その7

ぐるぐる、人差し指の先を動かして円を描く、《機械》は滑らかに輝くリングになって頭上を旋回していた。《機械》はどんなふうにも変化した、それは飛び道具として使うことすらできる。ゼロシキは指の動きを止め、今度は腕を回して旋回のスピードを上げてい…

『君を想う、死神降る荒野で』 その6

兵舎の壁は研究所と違って灰色だが、同じ様に無機質な造りになっている。ただ、少なくとも少年たちが暮らすここにはいくらかの生活感があった。《機械》を操る兵士としてのみ存在意義を与えられた少年たちは、ほとんど無表情のまま過ごしている、それぞれの…

『君を想う、死神降る荒野で』 その5

地下へ、クロガネはエレベーターで降りていく。つるんとした球体のエレベーター内部の壁は、うっすらと暖かいオレンジ色をしていたが、それは嘘くさいデザインで、その施設が抱えている底なし沼のような陰鬱さは消すことができない。地下六十六階、そこでエ…

『君を想う、死神降る荒野で』 その4

七十四、七十五、七十六……七十七! ゼロシキは数を数えていた、体を切り刻まれ、ぼろきれのようになって消えていく死神の数を。機械は巨大な鷹の翼のように変形し、羽のような一枚一枚の刃が隆起して、はばたくように振り回すたび周囲の死神をからめとってバ…

『君を想う、死神降る荒野で』 その3

「クロガネ所長」 研究員のタカマツが、片手に資料のデータが入った電子ノートを持ってクロガネの部屋に入ってきた。 「どうした?」 「《機械》研究にかかる追加予算の要望の件です。文科省と防衛省が共同で作成した予算案が、ようやく国会で議決されました…

『君を想う、死神降る荒野で』 その2

「君は完璧だ」 最初のテスト、その終り、ドクター・クロガネは目を開けたゼロシキの顔を見てそう言った。 「何ということだろう! 君の心は、完全な虚無そのものだ」 クロガネはとても喜んでいた。自分の発明である《機械》の持てる潜在能力を最大限にまで…

『君を想う、死神降る荒野で』 その1

目の前で誰も彼もが弾け飛んでいく。その肉体は膨張し、破断し、変形し、飛散する。彼も誰もが死んでいく。見境なく。僕の父も母も兄も姉も妹も弟も。みんな死んだ。 いや、そうじゃない。僕には初めから家族などいなかったのだ。死んだその肉体は、その無数…